第77章 【セメテユメノナカデハ】
「すみません、小宮山先輩、菊丸先輩がご迷惑をおかけしちゃって」
英二くんから私に笑顔を向けた鳴海さんが、びっくりしたんじゃないですか?、そう言いながら、彼に腕をからめると、トンっと胸に頬を寄せる。
あ、また……鳴海さんの挑発的な目……
英二くんは自分のものだって、私に釘を刺してるみたい……
いえ、別に……、そう2人から視線をそらして俯く私に、不二先輩にも謝っておいてくださいね、なんて鳴海さんはどこまでも余裕な笑みを浮かべた。
西日が差し込みオレンジ色に染まる教室で、1人自分の席に座り隣の席を眺める。
夢から目覚めると訪れるのは辛い現実……
さっきまでここで寄り添っていたことが、遥か遠い昔のことのよう……
大丈夫……平気だから……
もう分かってることだし、慣れなきゃいけないことだから……
でもやっぱり、もう一度触れてしまえば、一気に膨れ上がる恋心……
早く生徒会室に戻らなきゃいけないのに、なかなか立ち上がることができなくて……
どうしよう……、このままじゃ、みんなに迷惑かけちゃうし、きっと不二くんにも心配かけちゃう……
そう思っても、やっぱり身体にも心にも力が入らなくて……
私に挑戦的な目をした鳴海さんは、それから英二くんにいつもの柔らかい笑顔を向けると、さ、帰りましょう?、そう言って彼を促した。
あ、うん……、そうもう一度私の方に視線を向けようとした英二くんだったけど、途中で思いとどまったようで、結局、私の方を見ることはなかった。
「それじゃ、小宮山先輩、失礼します」
何事もなかったかのように寄り添って歩く2人の背中を、どうする事も出来ず、ただ黙って見送った。
英二くん……英二くん……英二くん……!!
何度も繰り返すと英二くんの机が涙で滲んで見えなくなった……