第77章 【セメテユメノナカデハ】
「あ、あの……もう少しだけ、寝ぼけててもらっても、いいですか……?」
「……小宮山がいいなら……いいよ……」
「それじゃ……あと少しだけ……」
あと少しだけ……鳴海さんのところに帰る前に……
私の腕の中で……
だってやっぱり気になる……
この、絆創膏……
私からは聞けないから、英二くんから何か言ってくれたらいいのに……
そっと手をとって手首のそれに触れると、英二くんがピクッと顔を上げる。
痛いの痛いの飛んでいけ、何度も心の中で繰り返すと、その様子をジッと見ていた英二くんは、ガタンと勢いよく立ち上がり、私をその胸の中へ閉じ込めた。
英二くん……もう、絶対、寝ぼけてるなんて言えないね……
ギュッと英二くんの背中に腕を回すと、その胸に頬を埋める。
このまま、英二くんの腕の中にいられたらいいのに……
神様、もし本当に「一生のお願い」があるのなら……
その権利、今、ここで使っても、構いませんか____?
「……菊丸先輩?」
ハッとして声の聞こえた方向に振り返る。
英二くんと同時に見た教室の入り口には、カバンを手にこちらの様子を伺う鳴海さんが立っていた。
芽衣子ちゃん!、そう慌てて英二くんが私から離れていく……
ゴメン、オレ、寝ちゃってて、その……、そう必死に私とのことを言い訳している英二くんの背中を眺めながら、やっぱり神様だって無理だよね……なんて目を伏せる。
「大丈夫ですよー?、先輩が寝ぼけちゃってたことくらい、ちゃんと分かってますから」
私と間違えたんですか?、そう言ってクスクス笑う鳴海さんに、ま、まぁ……、なんて英二くんは返事をすると、それからチラッとこちらに視線を向けて、気まずそうに目を逸らす。
大丈夫だよ、英二くん……
私にそんな気を遣ってくれなくても……
捨てた女より彼女のご機嫌をとるのは、当たり前なんだから……
さっきのだって、寝ぼけたふりしてて欲しいって言った私のワガママに、英二くんは付き合ってくれただけなんだから……