第14章 【キュウジツ】
「おっちゃーん、久しぶり~!」
アクアリウムが並ぶ薄暗い店内は、一気に時を2年前に巻き戻す。
水槽の懐かしい香りに、せつなさと懐かしさが入り乱れる。
「うわっ、菊丸くん!?本当に久しぶりだねー。元気だった?」
「もっち、オレはいつだって元気で明るい菊丸英二だよん!」
そうおどけと笑うと、ははは、そーだね、と店のおっちゃんも懐かしい笑顔をみせる。
中学時代はよく通った熱帯魚屋。
アクアリウムが趣味の大石に付き合って来たのがきっかけだったけど、何時の頃からか学校帰りに暇を見つけては遊びに来るようになった。
「メグとアリス、まだいるー?」
「菊丸くん、何時の話してるんだよ、もうとっくに売れちゃったよ~」
「マジでー?ちぇーっ、可愛かったのにぃ……」
メグとアリスはオレが勝手に付けたアロワナの名前。
カメのジョンなんてのもいたな、おっちゃんは太郎だって言ってたけど。
「……そういや、お店、改装したんだね」
「あー、うん、熱帯魚だけじゃ苦しくてね」
よくみると以前は店内一杯だった水槽は、今はその半分以上がイヌやネコ、小動物と言った普通のペットショップになっていた。
やっぱ2年という月日はなにも変わらないようで、色々変わってしまうのに十分なんだな、なんて思ったら少し息苦しくなった。
水槽の前に座り込んでアロワナをじっと見つめると、そこには自分の情けない顔が映っていて、慌ててそれから目をそらした。
「菊丸くん、その子気に入った?どう、安くしとくよ?」
「はは、ほーんと苦しいんだねー、タイチの餌で勘弁してよ」
そう言ってニイッと笑って胸の苦しさをごまかした。