第77章 【セメテユメノナカデハ】
「……小宮山……」
ああ……終わっちゃった……
英二くんの夢の時間も、私の夢のような時間も……
揺れる英二くんの瞳の中の私は、さっき無理に作った笑顔なんてもうどこにもなくて、気まずさや寂しさから、すっかり眉も口角も下がっていて……
目を伏せて英二くんから視線をそらすと、さすがにこれ以上はダメだよね……、そう諦めてその髪から手を離す。
ごめんなさい……、小さく謝り、一歩、後ずさりした。
その瞬間、グイッともう一度、私の腰に英二くんの手がしっかりと回される。
え?、英二くん、もう目、覚めたよね……?
今度は私が目を見開いて、戸惑いながら彼の顔を見下ろしたけれど、私のお腹に顔を埋めるその様子に、表情までは伺い見ることができなくて……
「え、英二くん、あの……まだ、寝ぼけてます……?」
「……うん」
戸惑いながら問いかけたその問いに、少し間を開けて小さく頷いた英二くんに、絶対、嘘だよね?そう頭は大混乱で……
だって、私を引き寄せる腕の力はさっきまでとは大違いで、こんなにしっかりと力強い……
英二くん、どうしてそんなに私のことを振り回すの……?
またイジワルして楽しんでるの……?
セフレだった頃も、付き合っているときも、いつも英二くんにからかわれていたけれど……
そんな英二くんのイジワルに、幸せを感じていたけれど……
これはさすがにキツすぎだよ……?
キツすぎだけど……
英二くんと寄り添っていると嬉しいの……
嬉しくて、幸せで、ドキドキして、離れたくないの……
私って、やっぱり依存気質なのかな……?
香月くんのときも吹っ切れるまでだいぶ引きずったし、そもそも、英二くんのセフレでいいって思っていた自体、かなりのもんだよね……
香月くんを忘れられたように、いつか英二くんを忘れられる日も来るのかな……?
そんな日なんて、永遠に来ない気がする……
ずっと高鳴り続けている心臓の音を聴きながら、そんな風に感じて英二くんを抱きしめた……