第77章 【セメテユメノナカデハ】
「小宮山だぁ……」
「はい、小宮山ですよ……」
私のお腹に顔を埋めた英二くんが嬉しそうに呟くから、優しくその髪を撫で続ける。
ふにゃっとした英二くんの笑顔を見ていると、沸き起こるのは久々に甘えてもらえた喜びと、でもそれは寝ぼけているだけな現実への苦しさと、それから、考えなしでとった自分の浅はかな行動への後悔……
英二くんの目がちゃんと覚めたら、怒られるかな……
鳴海さんにも申し訳ないな……
でも、嫌なの……私から、離れたくないの……
例え、英二くんは鳴海さんのものだって……
懐かしい香りの中に、彼女のものが混ざっていたって……
腕の中で寝ぼけている英二くんからは、鳴海さんの香水の香りがプンプンとしていて……
それはきっと、さっきまで寄り添っていたからに違いなくて……
どんなに分かりきっていることでも、匂いって凄く胸に訴えるものがあって、苦しすぎてまた涙が滲んでくる。
「小宮山……なんで……そんな顔……してんのさ……?」
私のお腹に顔を埋めていた英二くんが、もう一度私の顔を見上げながらそう呟く。
なんでって……そんなの、決まってるじゃない……
でもそんなこと言えるはずもなくて、ただ黙って首を横に振った。
「小宮山……笑って……?、せめて夢の中だけでも……小宮山の笑った顔……みたい……」
笑った顔……?
随分、無理難題、言うんだね……
笑えないよ……英二くんの前でなんて、笑えるはずないよ……
でも笑うね……?
英二くんのお願いだから……
英二くんが望むことだから……
私、ちゃんと笑ってみせるよ……?
私のことを見上げた英二くんが私の頬に手を伸ばす。
触れた瞬間、ずっと強張っていた頬を無理に上向きにする。
やっと笑顔、見れた……、そう嬉しそうな顔をした英二くんの頬に、ポトリ、私の涙が零れおちる。
その瞬間、視点の定まらなかった英二くんの目が、大きく見開いた____