第77章 【セメテユメノナカデハ】
お願い……どうか起きませんように……
息を殺して自分の席までくると、そーっと椅子を引いて机の中を覗き込む。
良かった……あった……
机の中にポツンと取り残されているメモ帳を確認し、ほっと胸をなでおろすと急いでカバンにしまう。
よし、あとは英二くんが起きないうちにこの教室から出るだけ……
そう思って静かにその場を離れようとしたところで立ち止まる。
チラッと振り返った視線の先の英二くんの寝顔……
久しぶりに見た……英二くん……
そりゃ、英二くんとは隣の席なんだから、別れてからだって色々気まずい思いもしながらも、なんとか学校生活を送ってきたけれど……
目も合わせないように視線は送らないし、うっかり触れてしまわないように、彼の通路側は通らないようにしているけれど……
でもこうして2人きりでいると、まるで何も変わらない、恋人同士のままのような気がして……
トクン、トクン……
さっきまでとは違う理由で速まる心拍数……
そっと英二くんの側に近づくと、久しぶりに目をそらさずにその顔を見つめる。
ドキリ、大きく心臓が跳ねる。
英二くん……それって、私が置いてたシャツ……
さっきまでは出来るだけ見ないようにしていたし、カバンの影になっていたから気がつかなかったけれど、机に突っ伏す英二くんの顔の下には、さっき私が紙袋に入れて置いてきたシャツが敷かれていて……
枕……?、でも、これって……
まるで握りしめていたかのような形の英二くんの手とシャツのシワ……
まだ乾ききっていない涙の跡がのこる頬……
そして、すごく辛そうな……息をするのも苦しそうな……そんな寝顔……
私……知ってる……覚えている……
ドクン____大きく震える心臓……
だってそれは、英二くんが過去に直面して、葛藤しているときの顔……
英二くん……どうしてそんな顔してるの……?
いつも鳴海さんと一緒で、あんなに幸せそうなのに、どうしてこんなに苦しそうなの……?