第77章 【セメテユメノナカデハ】
ごめん、オレ、ちょっと、その……、気まずくて慌てて視線を泳がせながら謝ると、あ、いいや、俺も調子に乗って悪かったよ、そうそいつもばつが悪そうな顔をした。
「英二、不二と仲良いもんな、親友の彼女のこと、そんな風に言われたら気分悪いよな」
「まぁ……うん……」
結局、不二の名前を借りてその場をおさめる。
先輩?、怪訝な顔をみせる芽衣子ちゃんに、なんでもないよん、そう笑顔を向けると、オレ、なんか疲れちった、なんて言って立ち上がった。
「オレさ、もう行っていい?、あとは女の子たちの連絡がメインじゃん?」
「はぁ?、あんた何言ってんの?、遅刻してきてさっさと帰るってどういうことー?」
「まぁ、いーじゃん!、本番ではシッカリやるからさ?」
本当に勝手なんだから、そうブツブツと文句を言う実行委員たち……
ズキンと胸に鈍い痛みが走っていく……
「先輩、帰っちゃうんですか……?」
寂しそうな顔をする芽衣子ちゃんにニイッと笑顔を向けると、終わったらLINEしてよ、教室で待ってるからさ?、そう言ってその前髪に手を添える。
はい、ふわりと緩んだ芽衣子ちゃんの嬉しそうな笑顔にクルリと背を向け、じゃーにー、そうヒラヒラと後ろ手を振り体育館を後にする。
本当に勝手なんだから、実行委員の誰かが吐き捨てるように呟いた言葉……
ああ、そうだよ、オレは勝手なの、チラリと視線だけ体育館倉庫に視線を向けてあざ笑う……
勝手に小宮山を襲って、勝手に動画撮って脅してセフレにして、やっと好きになってやれたのに、結局、他に女作って捨てちゃったんだからさ……
ズキン、ズキン……
胸の痛みが広がっていく……
渡り廊下に出ると、ポケットの中の絆創膏をギュッと握りしめる。
息苦しさを感じて慌てて取り出しビリッと破くと、制服の袖をめくって手首にピタンと貼り付ける。
「痛いの、痛いの、飛んでいけ……」
ポツリ、呟いて空を仰ぐ……
ガキの頃からなん度も繰り返したおまじないの言葉は、やっぱりなんの意味もなくて……
結局、胸の痛みはどんどんと広がり続けていった……