第76章 【アノヒ】
腕の中で眠る芽衣子ちゃんを、起こさないように持ち上げ腕を抜く。
カーテンの隙間から差し込む月明かりが彼女の白い肌を浮き上がらせるから、そっと布団をかけてそれを隠した。
芽衣子ちゃんを大切にするって決めてその唇にキスをした後、彼女の瞳に宿った熱を感じてベッドへと組み敷いた。
先輩、大好き、芽衣子ちゃんがオレの腕の中で何度も口にするのは、以前と同じ……
だけど、全然違う……
それは恋人に向けられた愛の囁き……
小宮山のために持ってきたゴムを付けて、芽衣子ちゃんとひとつになった。
押し寄せる罪悪感を振り払うように、激しく腰を振って何度も逝かせて、そんで自分も吐き出した。
今夜は泊まっていってくれませんか?、その願いを快く受け入れて、芽衣子ちゃんが作ってくれた夕飯を一緒に食べて、それから狭い風呂に抱き合って入って、またひとつになった。
ベッドの淵に座ると、目にとまる自身の胸や腹に散らばる赤い痣……
ひとつひとつ触れてはため息をつく……
「先輩……前はこっそり付けちゃいましたけど……今度はいいですよね……?」
行為の最中、オレの胸に頬を寄せて芽衣子ちゃんがそっと微笑んだ。
少し迷ってから、もちろん、いいよん……、そう言ってその髪を撫でると、芽衣子ちゃんは嬉しそうな顔でそこに吸い付いた。
迷ったのは、それは小宮山だけに許した行為だったから……
控えめな小宮山は、いいよって言ったその時だけ、本当に薄っすらとしか付けなかったけど……
小宮山のそれとは全然違う、くっきりと散りばめられた沢山の鬱血痕……
今更、他の女に付けさせたことを後悔したって、どうしようもないのにさ……
カーテンをもう少し開けて夜空の月に嘲笑う……
この部屋は何処までも幼い頃のそれと同じで……
窓の外の月が幼い日に眺めたそれを鮮明に思い出させて……
ドクン、ドクン____
激しく脈打つ心臓……グッと抑えて大きく息を吸った。