第76章 【アノヒ】
さすがにもう、小宮山もおかしいって気付いてるよな……
テーブルの上の携帯を手に取ると、夕方、嘘をついて約束を断ったLINEの返信文をじっと見つめる。
『バイトなら仕方がないですね、またの機会に……』
芽衣子ちゃんと夕飯を食べたあと、意を決して開いたけれど、結局、したことなんて無い既読スルーのままになっていて、いつもとっくに電話をしている時間なのに、それもしてなくて……
「ゴメン、芽衣子ちゃんと一緒に居たいから、もう、小宮山とは付き合えない……」
どんなに辛くても、ちゃんと伝えなきゃいけないのに……
LINEや電話じゃなくて、直接会って……きっと、すげー泣かれるだろうけど……
小宮山だけじゃなく、桃と不二にも……もしかしたら、殴られるかもしんないけど……
「……先輩……?」
背中から聞こえた芽衣子ちゃんの眠そうな声に慌ててLINEを閉じて振り返る。
ゴメン、起こしちった?、そう言ってその頬に触れると、くすぐったそうに首をすくめて笑う。
「先輩、こっち来て、抱きしめて……?」
布団から両手を伸ばしてハグを強請る芽衣子ちゃんの隣に滑り込むと、もう一度腕の中に閉じ込めて額にキスをする。
前はこんな風に甘えられなかったから、嬉しい……、そう言って芽衣子ちゃんはオレの首元に頬ずりした。
♪、その瞬間、枕元に置いた携帯が鳴る。
あ、小宮山からだ……
きっと時間が過ぎても電話しないオレに伺いのメッセージ……
分かっていても、分かっているからこそ確認できなくて……
自分で決めたくせに割り切れない胸の痛み……
チラついて離れない小宮山の泣き顔……
先輩、携帯、いいんですか?、そう見上げる芽衣子ちゃんに、別にいいよん……、そう笑顔で答えて小宮山を追い払う。
♪、もう一度鳴った小宮山からの通知音……
頼むからさ、もうこれ以上、鳴らさないでよ……
「それよりさ、芽衣子ちゃん、もっかい、いい?」
嬉しそうにはにかむ芽衣子ちゃんを見下ろすと、また罪悪感を振り払うように身体を重ね合わせた。