第76章 【アノヒ】
「……お前さ、氷帝、だったっけ?」
「そ、それがどうしたんだよ?、ああ、わかった、ビビってんだろ?、鳴海グループはお前なんて一生縁のないセレブだからな!」
鳴海グループ……?、んなの、オレ、よく分かんないけどさ……
分かってることが一つだけある……
きっと、これですべて上手くいく……
こいつを黙らせることも、芽衣子ちゃんを解放してやることも……
「んじゃさ、よろしく言っといてくんない?、跡べーに」
青学の菊丸っていえば分かるからさ、そう付け足してそいつの顔をジッと見ると、もうそいつにはオレの声なんか聞こえてないようで……
あ、あ、跡部って……、血の気が引いたその顔に、やっぱりね、そう思ってあざ笑う。
「く、口からでまかせ言ってんじゃねーよ!、なんでお前が跡部と……」
「でまかせじゃないよん?、宍戸や、忍足、向日、芥川……、テニス部の連中とは仲良いよん?」
ま、本当は特別、仲良いってわけじゃないし、向日なんて会えば喧嘩になる犬猿の仲だけどさ……
第一、肝心の跡べーなんて、頼まれたって口聞きたくないタイプだし……
でもこいつが氷帝の生徒なら、跡べーに悪行を知られたくないのは当たり前の話で……
きっと上流階級の繋がりもあるだろうから、尚更、ヤバイだろうし……
「あ、でも、やっぱいいかな、今から直接、跡べーに電話するから」
そう今度こそでまかせを口にしながら携帯を取り出すと、そいつの顔がますます青ざめていく……
や、やめろ!!、なんてそいつはオレの携帯に向かって飛びかかってくるから、だからさっきもオレに触れられなかったじゃん……そう思いながらまたヒラリと避けた。
「なに?、やめて欲しいわけ?、じゃあさ、オレのお願いも聞いてくんない?」
芽衣子ちゃんの嫌がること、もうしないでよねん?、そのオレのお願いに、その男は悔しそうな顔で舌打ちをすると、くるりと向きを変えて走り去る。
もう大丈夫だよん……、そっと芽衣子ちゃんの背中をトントンと軽く叩くと、芽衣子ちゃんの目からは安堵の涙があふれた。