第76章 【アノヒ】
「うるさいんだよ!このアマ!!、テメェなんかママに言って青学もやめさせてやる!!、仕送りだって止めてもらって、こんなボロアパートにすら住めないようにさせてやるんだからな!!」
んぐっと口ごもった芽衣子ちゃん、ギュッとオレのシャツを握る手に力が入る。
そんな彼女を気遣いながら、ん?と何か引っかかったその男の言葉に首をかしげる……
ママ……はともかく、仕送り……?
それって……
「ああ、俺と芽衣子は兄妹なんだよ、お前、彼女のお兄様にそんな態度とって、タダで済むと思うなよ?」
そう勝ち誇ったような目で笑うその男に、芽衣子ちゃんのにーちゃん?、そう信じらんない気持ちで目を見開いた。
だって……芽衣子ちゃんはこいつに無理やり……
それって、まさか……
「あんたとなんか兄妹じゃない!!」
混乱するオレの頭に響いた芽衣子ちゃんの叫び声。
我に返って振り返ると、目にいっぱい涙をためて、でも必死に泣かないように目頭に力を入れた芽衣子ちゃんが、その男をまっすぐに睨みつけていた。
「私に家族なんかいない……あんたも、あの女も……すっかり骨抜きにされたあの男も……」
私の家族は、亡くなったお母様だけよ……、力なく呟いた背中の芽衣子ちゃんがギュッとシャツを握りしめる。
その一言で、全てを悟ったような気がした……
芽衣子ちゃんは……孤独なんだ……
あんなに明るく振舞っていて、そんなこと微塵も感じさせないけれど、いつも1人で、孤独の中で生きてきたんだ……
こんな、古くてボロいアパートで……たったひとりで……
それは、まるで……
幼い頃の……オレ……
落ち着いていく心……
それは水面に出来た波紋がおさまり、ゆっくりと静寂を取り戻したかのように……
背中で震えながら涙を堪える芽衣子ちゃんを胸の中にしっかりと抱きしめると、堪え切れなくなった大粒の涙がその目から溢れ出した……