第76章 【アノヒ】
いつも芽衣子ちゃんと別れる曲がり角を曲がると、途端、どっちに進んだらいいかわからなくて……
家まで送るよん?、何度かそう申し出たけれど、本当にすぐですから、そう言ってそれ以上、芽衣子ちゃんは一緒にいようとしなかったから……
キョロキョロと辺りを見回して、芽衣子ちゃんの影を探す。
「なんで……なんであんたがここにいるのよ!!」
さっきの悲鳴よりもはっきり聞こえた女の人の叫び声……
間違いない、芽衣子ちゃんの声だ……!
さっきまでの嬉しそうな可愛い声とは違う、怒りと恐怖に震える声……
一体、何が起こったのか、なにに巻き込まれたのか……
頭の中はパニックだったけど、とにかく、声のする方へと全速力で走り抜ける。
「なんだよ、冷てーなぁ?、こっちであった模試のついでに、わざわざ会いに来てやったってのによぉ?」
「誰も来てなんて言ってない!さっさと帰って!!」
男……?
まだ何もわからないままだけど、芽衣子ちゃんが男と一緒にいるのはわかる……
そして、それが望まぬ相手だと言うことも……
「芽衣子ちゃん!!」
次の角を曲がった先、目に飛び込んできたのは嫌がる芽衣子ちゃんと、その手首を掴む氷帝学園高等部の制服を着る男子生徒の姿……
オレの声に振り向いた芽衣子ちゃんの目には涙が滲んでいて、先輩!、そうその男の手を振り払い胸の中に飛び込んでくる。
「先輩……怖かった……!」
さっきは呆然としただけだったけど、今度はその背中にしっかりと腕を回した。
ガクガクと震えている身体……
芽衣子ちゃんがオレの背中に腕を回し、ギュウっとキツく抱きついてくる。
芽衣子ちゃんは酷く怯えていたけれど、特に何かされた様子はまだなくて、良かった……間に合った……、そう安心したと同時に見えてきた周りの様子……
古いアパート……少しだけ開かれたドア……
ここが……芽衣子ちゃんの家……?
それはあまりにも芽衣子ちゃんのイメージとかけ離れている外観……
閑静な新興住宅地のここだけ、時間が何十年も前にタイムスリップしたかのよう……