第76章 【アノヒ】
____あの日
芽衣子ちゃんと並んで歩くバイトの帰り道……
これから小宮山に会いに行く、そう思うだけでオレはいつもよりずっとはしゃいでいて……
だから芽衣子ちゃんとの会話も、いつもよりなんか楽しくて、自分から率先して色々話してた。
「そんでさ、まさか中学のときの担任が店に来るなんてさー……きっとえっちいの、借りにきたんだよん?、芽衣子ちゃんあの先生にあたったことある?」
「あ……私、外部からなんで、中学のことは分からないんですよー」
先日、たまたまバイト先に中学の頃の担任が買い物に来て、その話題の流れで知った芽衣子ちゃんの外部進学。
そりゃそうだよな、こんだけ可愛ければ、学年が違ったって名前くらい噂になってるはずだもんな……
へー、そうなんだ、中学どこ?、なんてそのまま勢いでなんも考えずに問いかけた。
「……氷帝、です」
一瞬、間が空いて答えた芽衣子ちゃんに、しまった、そう内心焦った。
小宮山の中学もそうだけど、氷帝から外部進学なんて、よほどの事情がないかぎり考えらんなくて……
やっぱ、小宮山みたいにいじめにあったのか……あるいは……
「家庭の事情ですよ、先輩」
そんなオレの気まずい気持ちが顔に出ていたのか、芽衣子ちゃんがサラッと話す。
やっぱり……、氷帝は言わずも知れたセレブ校。
跡部クラスの上流階級は稀にしても、大抵の家は裕福な家庭の子が多い。
まぁ、宍戸のように一般家庭の子も中にはいるらしいけど……
家庭の事情ってことは、つまり、授業料が苦しくて……なんてところか……
なんか、悪いこと、聞いちゃったな……
それから、なんか気まずい雰囲気になっちゃって、電車を降りてからもなんて言ったらいいかわかんなくて……
考えたらその日はまだ明るいんだし小宮山だって待ってんだから、別に家の近くまで送る必要なかったのに、でもサッサと別れるのも悪い気がして……
気がついたら普段と変わらず、家の近くまで一緒に黙って歩き続けた。