第74章 【ウチコメルモノ】
1日の終わり、いつもの窓辺に座り夜空を眺める。
不二くんと一緒に眺めて来た月は時間の経過とともに、より高く、より白く輝きを増していた。
今日は本当にいろいろあったな……
朝、祈るような思いで家をでて、でもその祈りも虚しく英二くんに別れを告げられて……
鳴海さんと英二くんが仲良く登校するところや、裏庭でお昼を食べるところを目撃して、それどころかキスシーンまで見ることになっちゃって、動けないでいる私のところに美沙が駆けつけてくれて……
美沙に無理やりお弁当を食べさせてもらって、不二くんがテニスに誘ってくれて、少し心が軽くなって……
イタタ……、もう身体のアチコチが悲鳴をあげている……
初めてしたテニスに普段の運動不足の身体が耐えられるはずもなく、もう既に怠さと痛みを訴えはじめた右腕を上下にさする。
明日は大変なことになりそうだな……、なんて苦笑いしながら、はふっ……と、ひとつ、欠伸をついた。
今日は久しぶりに美沙のおかげでまともに食事も取れたし、不二くんたちと運動もして疲れたからちゃんと眠れそう……、なんて思いながら壁の時計を確認する。
時間は10時55分……
条件反射で携帯に手を伸ばし、それから我に返ってため息をついた。
バカみたい……
もういつもの時間になったって、英二くんから電話なんて、かかってこないのにね……
また涙が滲んで慌ててそれを拭うと、ダメ、泣いたって何も変わらないんだから……、そう自分気合いを入れようとパチンと両頬を軽く叩いた。
「あら、お弁当、全部食べられたのね……?」
空っぽになった私のお弁当箱を見て、良かった……、そう心から安心したように呟いたお母さん。
美沙がどんどん口に放り込むんだもん……、そう言って苦笑いしたら、美沙ちゃんといい、不二くんといい、本当に良いお友達ね、なんてお母さんも力なくだけど笑ってくれた。