第74章 【ウチコメルモノ】
うん、本当に良い友達……とても素敵な……
お母さんにも、友達にも、いつまでも心配かけちゃいけないよね……
ふと思い出したテニスに打ち込む桃城くんのスッキリした笑顔。
私もあんな風に打ち込めるものがあったら、英二くんのこと、考えなくて済むのかな……?
そっと本棚から取り出した、某出版社の文芸雑誌。
確かこの辺りに……、パラパラとページをめくり、小説コンクールの応募要項を探し出す。
この記事を見つけた時からずっと気になっていた。
だけど、私なんかに、なんて思って、すぐにその記事から目をそらした。
夢中になれるものなら、別になんでもいい……
でも好きなことじゃなければ、夢中になれない……
ニャア
足元に擦り寄ってくるネコ丸。
2度、3度、ぐりぐりと頭を押しつけ、それから、とんっとベッドへと飛び上がる。
もう一度、ニャアと鳴くその様子に、催促?、なんて笑いながら、雑誌を戻して私もベッドへと移動する。
挑戦、してみようかな……締め切りまでまだ時間もあるし……
読むばっかりで、本当に形になるかなんて分からないけれど……
ベッドの中、ゴロゴロと喉を鳴らすネコ丸の温もりに、押し寄せてく強い眠気の波……
逆らわず、そのままその波に身を委ねる……
「……おやすみ……なさい……英二……く……ん……」
もう決して帰っては来ない「おやすみ」のあいさつ……
分かっていてもやめられないのは、日頃の習慣と英二くんへの恋しさから……
つつーっと眠りについた私の目から、ひとしずくの涙がこぼれ落ちる。
コンコン、ドアをノックした後、カチャっと静かに部屋のドアが開き、様子を見に来た母が心配そうな顔で覗き込む。
ピクッと反応して起き上がったネコ丸に、シーっと人差し指を立てながら、それから私の涙を優しく拭いてくれた。
ふわりと鼻先で香ったその香りは相変わらず心地よくて、私は安心して深い眠りへと落ちていけた。