第74章 【ウチコメルモノ】

不二くん……どうしたんだろう…-？


さっきからずっと黙ったままの不二くんをチラッと見上げる。
斜め後ろから見上げた顔ではその表情を伺い見ることは出来ないけれど、その雰囲気はどことなく普段のものとは違うように感じて……


私の知っている不二くんはいつも穏やかに笑っていて……
英二くんや桃城くんは、よく不二くんのことを「怒らせると怖い」って言って怯えているけれど、私に対しては本当に優しくて……


不二くんは英二くんや美沙のように率先して話すタイプではないけれど、いつも豊富な知識と視野の広さから素敵な話を沢山してくれる。
だからこんな風に長い間、黙りっぱなしなんてこと今までなくて……


やっぱり、怒っているのかな……？


さっきの海堂くんに向けた不二くんの鋭い視線……
気にすることないって言われたって、そんなこと無理な話で……


もう一度、その横顔を見上げると、私の視線に気がついた不二くんと目があって、どうしたの？さっきから、僕の顔に何かついてる？、なんて聞いてきて……
何度もチラ見してたこと、バレてたんだ、そう思ったら恥ずかしくて、カァーって顔が熱くなって……
いえ、あの、その……、なんて慌てて俯いてしまう。


「……少し、考え事をしていたんだ……」

「考え事……それって英二くんのこと……ですか？」


そんな私の質問に、不二くんは私の顔をまっすぐに見つめて、うん、それから……小宮山さんのことだよ、そう静かに答える。


……私？、不二くんの笑顔ではないその目は、相変わらず私を金縛りにさせる。
ゾクッとするような視線は、街灯の薄明かりの中でもしっかりとその存在を際立たせて……


「あ、あの……私のことって……」


どんな……？、そう戸惑いながら問いかける私に、不二くんはフッといつもの穏やかな笑顔になって、テニス、楽しかったでしょ？、そう何事もなかったかのように笑いかけた。