第74章 【ウチコメルモノ】
「ここまで……だね」
気がつくと桃城くんはコートに仰向けで倒れていて、不二くんがコート越しに微笑んでいた。
ハァ、ハァ、と大きく息をしながら、容赦なしっすね、そう桃城くんが悔しそうに呟く。
「クスッ、僕に勝つのはまだ早いよ?」
「……一生勝てないっすよ……」
ゆっくりと桃城くんが立ち上がり不二くんに歩み寄る。
ネット越しにしっかりと握られた握手……
ありがとうございました!、90度に腰を曲げて掛けられた力強いお礼の言葉……
徹底的にやってくれてスッキリしたっす、言葉通り、晴れ晴れとした桃城くんの表情は、思いっきりテニスをしたことで、どこか吹っ切れたような、そんな感じだった。
「いいな……打ち込めるものがあって……」
パチパチと拍手をしながら、そうポツリと呟く。
私も何かに打ち込めたら、英二くんのこと、吹っ切ることができるのかな……
ポロリ、流れる涙……
ダメだ……一度、頭をよぎると、どんどん落ちていく気持ち……
忘れなきゃいけないのに……止まらない……止められない……
英二くん……
私の涙に皆さんが困っているのがわかる。
河村くんなんて、小宮山さん、あの、その、そうオロオロしちゃって凄く申し訳ないんだけど、泣き止まなきゃって思うんだけど、それでもやっぱり止まらなくて……
ギュッと不二くんの学ランを抱える手に力が篭る。
ポタリ、ポタリとそれに付く涙のシミ……
ごめんなさい……、小さく呟いて必死に涙を拭った。
「……小宮山さん、テニス、してみる?」
その不二くんの言葉に驚いて顔を上げる。
一瞬、彼の言っている言葉の意味がわからず、えっと……私ですか?、そう戸惑いなが首をかしげる。
そんな私に、不二くんは相変わらず優しい笑顔を向けてくれて、うん、きっと楽しいよ?、そう言って自身の手にしているラケットを差し出してくれた。