第74章 【ウチコメルモノ】
「……何か用っすか?、2人して俺のこと笑いに来たんすか?」
桃城くん……
そんなんじゃないの、ちゃんと分かってるんだよね……
鳴海さんのことでどうしようもない気持ち……
今までは英二くんが本気じゃなかったから、頑張ってこれた……
でももう、諦めなきゃいけないって葛藤してる……
きっと……私と同じ……
「桃城くんが笑われるなら、私なんて子々孫々まで晒し者にされちゃいますよ……?」
力なく笑う私に、桃城くんはハッとした顔をして、すんません、そう小さな声で謝った。
「桃、そろそろ……、延長届けだしてないしね」
「……はい、分かってるっす」
項垂れて座っていた桃城くんがフラフラと立ち上がり、それからこちらに歩み寄る。
私たちの足元に転がっているラケットを拾い上げると、それから少し考えて、あの、不二先輩……、そう呟くように呼びかけた。
「最後に少しだけ、俺と打ってくれませんか……?、その……俺、まだ打ち足んなくて……」
眉間にしわを寄せる桃城くんの辛そうな顔……
不二くんが時計を確認し、それから、小宮山さん、少し遅くなっても構わないかな?、そう私に問いかける。
はい、もちろん、大丈夫ですよ、そう言いながらお母さんにLINEを入れると、不二くんは私をテニスコートへと案内してくれた。
「ここで待ってて、すぐに終わらせるから」
「言ってくれますね……不二先輩」
挑戦的な目の桃城くんに、どこまでも余裕の笑みの不二くん……
不二くんに手渡された彼の学ランを軽く畳んで抱えると、コート脇のベンチに腰を下ろす。
こんなに近くでテニスを見るの、初めてだな……
「時間がないから、1セットマッチプレイでいいよね?」
「はい、お願いしまっす!」
ポンポンと軽くボールを2回ついて、それから横回転をかけて手元から落とす。
テニスのサーブって、高くトスを上げて振りかぶるものだと思ってたけど……
「そのボール、消えるよ?」
挑戦的な不二くんの声と視線に、ゾクっと背筋を冷たい空気が通り抜けた。