第73章 【モクゲキ】
「美沙、よくここだって、分かりましたね……?」
「……英二、とっ捕まえて、璃音が居そうな場所聞き出した」
そっか……、じゃあ、英二くんに私が見てたってこと、気づかれちゃったな……
また覗きが趣味だって呆れられたかな……
少しは……私にあんなシーンを見せたこと、気にしてくれるかな……
やっと落ち着いた涙がまたジンワリと滲む。
そっと指で拭うと美沙がふわっと優しく髪を撫でてくれた。
「璃音、ちゃんとお昼食べた?」
「え?、いいえ、その、それどころではなくて……」
「朝は?昨日の夜は?」
「……その、食欲がなくてあまり……」
全く、いつから食べてないわけ?、なんて言いながら、美沙は私のカバンをガツガツ開ると、奥底からお弁当を取り出して、ほら、食べなさい!、そう言って私の胸に押し付ける。
「でも、もう授業始まってますし……」
「授業より健康!大丈夫よ、英二が言い訳しててくれるって言ってたから!」
「……英二くんに言い訳を頼んだら、今頃私たち、腹痛でトイレに篭ってることになってますよ?」
「ま、まぁ、それでもいいわよ、私、そんなキャラだから」
璃音のお母さん、流石ね、胃に優しそうなものばっかりだよ、そう言って美沙が1つ1つセッティングしてくれたお弁当は、本当に消化の良いものばかりで……
相変わらず何も聞かないで見守ってくれるお母さんの優しさが嬉しくて……
「ほら、あんたは病気じゃないんだから、無理にでも食べさせるよ!」
そう言って美沙がスープポットのリゾットをスプーンですくって私の口元に差し出す。
少し戸惑ってからゆっくりと口に含むと、優しい味が口の中に広がって、またどうしようもなく涙が溢れた。
こんなんじゃ、いつまで経っても涙止まらないな……
「ほら、泣いてないで、次!、この大根も味がしみてて美味しそうだよ!」
「美沙、ちょっと速すぎますよ」
「何言ってんの、こんくらい普通でしょ!、はい、あーん!」
すごい勢いで差し出されるそれを、パクパクと口に頬張っていくと、余計なことは考える暇もなくて……