第73章 【モクゲキ】
「小宮山……!」
真っ青な顔をして走り出す英二の手を、すんでのところで掴み制止する。
何だよ、離せよっ!、そう言いながら振り払おうとするその手をしっかり握りしめると、あんたが行ってどうすんのよ!、なんて声を荒げた。
「あんたが行って、今まで通り抱きしめてあげれんの!?、これからも大切にしてやれんの!?」
私のその言葉に抵抗する英二の動きがピタッと止まる。
あんなに英二のことを慕っている璃音……
その璃音を裏切って、他の女のところに行った英二……
いいやつだって思ってたのに……
璃音のこと、任せられるって安心してたのに……
一気に力が抜けた英二とは対照的に、その腕を掴む私の手にはますます力が入る。
「出来ないなら中途半端なことしないで!!」
完全に力が抜けた英二の手を荒々しく離すと、項垂れているその顔をギロッと睨みつける。
璃音はあんたのこと、全然責めてないけれど、私は絶対許さないから、そうはっきりと言い放った。
絶対、許さない……
あの日のお昼休み、必死になって璃音を守り、好奇の目から逃げ回っていた英二……
その日の夜、幸せそうに英二とのことを話してくれた璃音……
笑顔の写真を貼りつけた卒業アルバム……
璃音への愛で溢れていたあの電話……
あれはいったい何だったのよ……!!
「……体育館裏、茂みの中……」
項垂れたままの英二の力無い声……
え……?、聞き返した私に、英二がもう一度繰り返す。
「体育館裏の茂みん中で……多分……泣いてる……」
市川、行ってやって……、オレ、先生に言い訳しとくから……、そう震える声で続けた英二は、私の横を通り過ぎると教室へと向かっていく。
なによ、罪悪感にかられたからって、あんたがそんな態度取んないでよ!
璃音の受けた悲しみに比べれば、あんたの心の痛みなんてたかが知れてるじゃない!
まだまだ言い足りないけれど、今はとにかく璃音が最優先!
急いで英二を追い抜くと、そのまま体育館裏へと駆け出した。
〜市川side