第73章 【モクゲキ】
「……ね、先輩?」
しばらく楽しそうにお喋りしていた鳴海さんが、少し声のトーンを落として英二くんに声をかける。
不思議に思って2人に視線を向けると、英二くんも不思議そうな顔で鳴海さんを見ていた。
「……覚えてます?、私がここで先輩に告白したときのこと……」
「あー……、ん、もちろん、覚えてるよん?」
私も覚えている……
あの時も今と同じ、この茂みの中で2人の様子を息を殺して見ていた……
あの時はまだ英二くんのセフレで、英二くんが鳴海さんにごめんねって謝ったのを聞いて、心からホッとして……
その後、英二くんが鳴海さんのこと、好みのタイプって言っていて、でもまだ英二くんは自暴自棄の真っ最中だったから、彼女は作らないって言っていて……
もう英二くん、普通に恋愛できるようになったから……
そっか、私と付き合うことが、丁度良いリハビリになったんだ……
そう思ったら、私の失恋も報われるな……、そんな風に無理やりポジティブに考えてみる。
そうでもしなきゃ、今のこの状況に耐えられそうにないから……
「……私、あの時、すごく悲しくて……でも、色々あったけど、やっと先輩の彼女になれた……」
先輩、ずっと私と一緒にいてくれるんですよね……?、そう言って英二くんの肩に寄り添った鳴海さんが、ジッと彼の顔を見上げ、それから、チョイチョイと強請るように学ランの袖を引く……
少し戸惑った様子で視線を揺らした英二くんが、そのまま鳴海さんに顔を近づけていく……
ヤダ……ヤメテ……
お願い……それ以上、近づかないで……
朝、私にキスしようとした英二くんが、今、私の目の前で鳴海さんにキスしようとしている……
見ていたくないのに、そんな2人から目が離せなくて……
もういっそ、バレてもいいから立ち上がって逃げちゃえばいいのに、どうしても身体が動かなくて……
結局、身動きが取れないまま、英二くんの唇が鳴海さんのそれにしっかりと重なるのを、ただ黙って見つめていた……