第73章 【モクゲキ】
その瞬間、英二くんがこちらを振り返った。
ハッとして慌ててまた茂みの影に身を隠す。
どうしよう……バレた……?
声に出してないのに……偶然……?
「先輩……どうしたんですか……?」
「あ、ううん、なんでもないよん」
バクバクしながら震える身体を抱きしめる私の耳に、2人のそんな会話が聞こえてくる。
恐る恐る顔を上げて、もう一度2人の様子を確認すると、もう英二くんはこちらを見ていなくて、良かった……バレてない……、そうホッと胸をなでおろした。
覗いた先の木の下、英二くんと鳴海さんが腰を下ろす。
2人、隣り合って座るその様子は私の時と同じ、友達とは違う心の距離……
バレなくて安心した胸はすぐに痛みを取り戻し、まるで張り裂けてしまいそう……
「わぁ、先輩のお弁当、予想通り、とっても美味しそう♪」
「芽衣子ちゃんのも美味しそうだよん?」
「だって先輩と一緒に食べれるんですもん、私、すごく頑張っちゃいました!」
やめて……聞きたくない……
必死に耳を塞いでもはっきり聞こえてくる声……
また茂みの中に縮こまって、キツく耳を塞ぎ続ける。
「そう言えば先輩、来月、誕生日ですよね?、今から一緒にお祝いするのが楽しみです♪」
「あ……うん、そだね……」
そう、英二くんの誕生日……11月28日……
プラネタリウムに行った時、一緒にお祝いするって約束した……
私じゃなきゃ嫌だって、英二くん、言ってくれたのに……
「先輩、手編みのマフラー……なんていりますか?、私、結構好きなんです、編み物」
「あー、うん、もちろん嬉しいよん?」
手編み……凄いな……
私なんて、究極の不器用だから、最初から挑戦する気にすらならないもん……
「それじゃ、ケーキも手作りしたいんですけど、イチゴとチョコ、どっちがいいですか?」
「んー……チョコレートかな〜?」
鳴海さん……あんなに可愛らしくて、女子力もすごく高い……
卵もまともに割れない私とは大違い……
はは……、口からそんな乾いた笑い声が溢れた……