第73章 【モクゲキ】
吹き付ける秋風……
もう爽やかと言うには肌寒いそれに、学校指定のカーディガンの袖を伸ばすと、膝を抱えて身を縮める。
先ほどの風が頭上の枝葉を揺らし数枚の木の葉を降らせる。
足元にも沢山の落ち葉……
ここでのお昼も、もう春までお預けかな……、秋晴れの空を眺めながら乱れた髪を手櫛で揃える。
だいぶ長くなったな……
その髪の毛を、ひとつまみ指でつまんでクルクルと巻きつける。
よく手入れに気をつけているそれは、指を離すとスルッと解けてフワッと他の髪と1つになった。
英二くん、時々、こうやって私の髪を弄ってたな……
しょっちゅう、キレイって撫でてくれたし……
……髪、切ったら気分転換になるかな……?
でも、当てつけっぽくて感じ悪いよね……
それに……
あの時……空港で、せっかく英二くんが守ってくれた髪だもん……
あの英二くんが、私を助けるために夢中でラケットを握って、ボールを打ってくれたんだもん……
やっぱり……切りたくないな……
「やっぱり誰もいませんよ〜!」
ドクン____
急に聞こえて来た聞き覚えのある声……
今は絶対聞きたくないその可愛い声に、大きく胸が嫌な鼓動を打つ。
必死に抱えた膝をギュッと握り、小さくなって茂みに身を隠した。
「ほら、私の言う通り、ここにして正解でしたね!」
ドクン、ドクン____
誰と一緒なの……?
そんな嬉しそうな声で、いったい誰とここに来たの……?
答えは分かっている……
だけど、信じたくない、嘘だと思いたい……
「ここなら2人っきりでゆっくりできますよ♪」
だって、ここは、私のお気に入りの場所なの、知ってるでしょ……?
いつもここで1人でお昼休みを過ごしてるの、忘れてないでしょ……?
恐る恐る背筋を伸ばしてその様子を伺う。
よせばいいのに……見なくても分かり切っているのに……
「菊丸先輩、はやく座りましょう?」
どうして……?
ここには私たちの思い出がたくさん詰まっているんだよ……?
英二くん____