第72章 【ゴメン】
「璃音、おっはよー!あんたがこの時間なんて珍しいねー!」
後ろから聞こえて来た美沙の元気な声に振り返る。
不二くんもおはよう、そう私の隣に並んで歩き出す美沙に、おはようございます、そういつもと変わらないように挨拶する。
そういえば、美沙にはちゃんと言わないと……、なんて思ってる矢先から彼女の顔が怪訝なものに変わる。
美沙が見ているのは前を歩く英二くんと鳴海さん……
ちょっと、どういう事!?、そう美沙が大声で叫んだ。
「璃音!、あんた、なんで黙ってんの!?」
「……いいの」
「何がいいのよっ!いいはずないじゃない!!」
「いいんだってば!」
美沙の大声に周りの視線が集まる。
市川さん、今は気持ちをしずめて、そう不二くんが説得するけれど、それでも美沙の怒りは収まりそうになくて、直接話を聞かなきゃ納得できない!、なんて言ってまた大声をあげた。
今にも走り出して、英二くんに掴み掛かりそうな勢いの美沙を必死に制止する。
やめて……2人に気づかれちゃう……!
離してよっ!、そう叫びながら私の腕を振り払おうとする美沙に、お願いだから……、なんて力なく呟いた。
「璃音……ゴメン、私……」
周りのざわめきと私のその様子に美沙がハッとして、それから辛そうな顔をする。
不二くんも美沙も、私のためにそんな顔しないで……?
必死に笑い続ける私の身体を美沙がギュッと抱きしめた。
「ったく、あんたって子は……辛いなら無理に笑わないの!」
口調は怒っていても、心から私のことを思ってくれる美沙の腕の中は相変わらず暖かくて……
ありがとうございます、そう呟くとまた涙が溢れた。
教室に入ると嫌でも英二くんと顔を合わせる羽目になる。
あんなに幸せだった隣の席は、別れた恋人同士にとって、これ以上気まずいものはなくて……
案の定、先に席に座っていた英二くんの姿に、入り口付近で立ち尽くしてしまうと、そんな私の肩を美沙がポンっと軽く叩いて、行こ、璃音、そう優しく促してくれた。