第72章 【ゴメン】
「不二くん……英二くんから、聞いてたんですか……?」
「うん……昨日ね……小宮山さんのことを頼むって……」
「それでわざわざ来てくれたんですか……?」
英二くんも不二くんも、そんなに気を遣ってくれなくてもいいのに……
これは、私が乗り越えるしかない問題なのだから……
「……小宮山さんは……その、どこまで……?」
言いにくそうに口を開く不二くんに、ゆっくりと首を横に振る。
具体的には何も……、そう言って相変わらず爽やかな秋空を仰ぐ。
具体的な話は英二くんの口からは何も聞いてない……
でも、聞かなくたってわかる……
ずっと不安だったことが、ただ、現実になっただけ……
そりゃ、鳴海さんが本気を出したら、私なんて太刀打ちできないよね……
英二くん、最初から好みのタイプだって言っていたし……
それに比べて、私は苦手なタイプで……
悔しいなぁ……
どうせなら、雨、上がらなければよかったのに……
学校が近づいてくると、当然だけど、周りは青学の制服だらけになる。
2人で登校なんて珍しいねー?、なんて声を掛けてくれる生徒たちに笑顔で会釈をする。
何も変わらない朝……でも大きく違う朝……
坂を登り緩やかなカーブを曲がると、目に飛び込んで来た光景にビクッと身体を固まらせる。
英二くんと鳴海さん……やっぱり、一緒に登校したんだ……
それは2人、手を繋いで仲良く登校する後ろ姿……
時々、鳴海さんが可愛らしい笑顔で英二くんを見上げている。
私も英二くんと普通の恋人同士だったら、あんな風に堂々と登校したり出来たのかな……
「……小宮山さん……」
思わず足を止めて顔をこわばらせると、私の視線の先を確認した不二くんまで辛そうな顔をしたから、大丈夫ですよ、そう慌てて無理に笑顔を作る。
「……でもやっぱり、慣れるまではキツイですね」
冷たい秋風で乱れた髪を耳にかけながらポツリと呟いた私の頬を、また涙が零れ落ちる。
今度は不二くんがその涙を優しく拭ってくれた……