第72章 【ゴメン】
「だから謝んなって言ってんじゃん……オレが悪いのにさ……」
私の身体を抱きしめる英二くんの手に力がこもる。
恐る恐るその背中に腕を回すと、英二くんの身体がビクッと跳ねて、ゴメン、そう微かに謝罪の言葉が聞こえた。
「なんで怒んないんだよ……最低って、酷いって……オレのこと責めればいいじゃん……」
頼むからさ……、絞り出すように耳元で囁かれた英二くんの辛そうな声……
なにも言えず黙って首を横に振る……
そんなに泣きそうな顔しないでよ……
そんなに震える声で謝らないでよ……
そんなに力強く抱きしめないでよ……
邪魔な女、切り捨てられたって、スッキリした顔で笑ってよ……
じゃないと、私……諦められないんだから……
……なんて、どんな顔されたって、どんな言葉を浴びせられたって、私が英二くんを忘れられるはずないのにね……
溢れる涙……
ダメ、泣いたら英二くんをますます困らせちゃう……
英二くんの手が私の頬に触れて、そっとその涙を拭ってくれる。
英二くんのこの手は、前となにも変わらないのに……
もう……私の手じゃないんだね……
ゆっくりと近づいてくる顔……
ダメ……絶対にダメ……
お願いだから、やめて……?
もう、迷わせないで……?
それ以上されたら……
私、ぜんぶ悪い夢なんだって、自分の都合のいいように考えてしまうから……
そう心は必死に拒んでいても、身体は勝手に瞳を閉じて、その悲しいキスを受け入れる……
だって拒めるはずない……
いつだって私は、英二くんのことが大好きで……
何をされたって、どんなに酷いことされたって、嫌いになんかなれなくて……
それはセフレだったころから何も変わらなくて……
馬鹿みたい……
別れのキスだっていうのに、こんなに胸がドキドキしてる……
やっぱり英二くんが大好きって、一生懸命、脈打ってる……
そしてまさに唇が触れ合う直前……
英二くんの胸のポケットで携帯が着信を知らせた。