第72章 【ゴメン】
「こんくらいしか、もうしてやれないからさ……」
英二くんの、はっきりしない、でも確実に終わりを意味する言葉。
もっとキッパリ言ってくれればいいのに……
鳴海さんのことが好きになったから、もう私なんかいらないって、はっきり言ってくれたらいいのに……
「じゃ、オレ……約束あるから……」
鳴海さんと……?
これから鳴海さんのところに行くの……?
聞けないよ……そんな分かりきっていること……
私の横を俯いたままの英二くんが通り過ぎる。
待って……行かないで……
鳴海さんのところになんか……行かないで……
行かないで……!!
思わず伸びた手……
気がつくと英二くんの学ランをキツく握りしめていた。
ピタッと彼がその場に立ち止まる。
ダメ、こんなことしないつもりだったのに……
英二くんを困らせるだけだから、今回は駄々こねないつもりだったのに……
早く離さなくちゃ……英二くんを行かせてあげなくちゃ……
そう思えば思うほど、私の意思とは裏腹に、学ランを握る手に力が入ってしまう。
とん、その背中に額を付けて寄り添った……
どうしてこんなことになっちゃったの……?
私の何がいけなかったの……?
あんなに幸せだったのに……
あんなに優しくしてくれたのに……
ねえ……英二くん……
今、いったいどんな顔しているの……?
私を捨てて鳴海さんのところに行く英二くんは……
いったい、どんな顔を、しているの……?
「……小宮山、離して?」
前を向いたまま英二くんが低い声で言う。
条件反射でビクッと跳ねる肩……
ごめなさい……、慌ててその手を離す。
その瞬間、英二くんが勢いよく振り返る。
怒られる……!、もう一度大きく震える身体……
だけど目があった彼はさっきよりももっと辛そうな顔をしていて……
それから、グイッと勢いよく私の身体を引き寄せると、
その腕の中に閉じ込めた___