第72章 【ゴメン】
ゆっくりと上げていく視線の先……
開けていく視界……
脚……お腹……胸……
そうして、たどり着いた英二くんの顔に……いつもの笑顔はなかった……
「……ちょっと、話せる……?」
英二くんの震える唇がそう呟く。
彼が指差す先はいつもの公園……
黙って頷き、英二くんの後に着いて行く……
多分……最後……
英二くんとこうして、恋人同士として歩くのは……
これが……最後……
はじめに英二くんの顔を見たとき……全てを理解した……
英二くんは、これから、私に別れを切り出そうとしている……
そしてきっと英二くんも……
私が気づいていることに、気づいている……
英二くんの顔……あの時と同じ……
まだセフレだった頃、一番最初に私の家に来て、帰るときにセフレ解消を申し出ようとした時に見せた顔、出した声……
でもその時よりずっと強く感じられる強い覚悟、強い意志……
英二くんにそんな顔を見せられたら、もうそれに従うしかないよ……
セフレだった時は、捨てないでって駄々こねちゃったけど……
身体だけでいいからって、私のワガママを通して貰っちゃったけど……
でももう、そんなこと言って、英二くんを困らせること出来ないよね……
だって、英二くんは、もう鳴海さんのものなんだもの____
「……あのさ……これ……」
いつもの東屋まで来ると英二くんが私に紙袋を差し出す。
無言で受け取り中身を確認すると、それは学園祭で使うネコ耳……
「約束したからさ……昨日の夜、急いで作ったから、ちょっち雑だけど……」
いいのに……
別れる私なんかのために、わざわざ作ってくれなくても……
自分でなんとかしましたのに……、そう言ってその紙袋をカバンにしまうと、こんくらいしか、もうしてやれないからさ……、そう言って英二くんは目を伏せたまま呟いた。