第72章 【ゴメン】
「……行って来ます、お母さん、ネコ丸……」
月曜日……いつものように玄関でお母さんとネコ丸に「行って来ます」の挨拶をする。
本当にいいのよ、お休みしても……、そう心配そうな顔をするお母さんに、だから大丈夫だってば、心配しないで……?、なんて無理に作った笑顔を向けた。
土曜日、英二くんと鳴海さんが仲良く帰っていくところを目撃して、お家デートの約束を断られて、その夜の電話もかかって来なくて……
結局、日曜日になっても英二くんからの連絡は一切なくて、私からのメッセージに付いた既読表示がさらに胸の痛みに拍車をかけて……
お母さんに心配かけちゃいけない、そう必死に平気なふりをしていたけれど、やっぱり誤魔化しきれるわけもなくて……
だけど相変わらずお母さんは何も聞かずに見守ってくれるから、私もその優しさに甘えて1人でその不安と向き合っていた。
「お母さん……もしかしたら私……」
言いかけて言葉を詰まらせる……
もしかしたら私、もう、英二くんの傍に居られないのかもしれない……
声にしてしまいたくない……考えすぎだと思いたい……
ううん、なんでもない……、そうもう一度笑顔を作ってガチャリと玄関のドアを開ける。
土曜日から降り続いていた秋の長雨は、夜のうちにすっかりやんでいて、雨上がりの街はキラキラとひかり輝いていて……
私の心の中と正反対のその様子が、さらに深く気持ちを沈ませる。
どうか英二くんがいつもの笑顔で「おはよーっ!」って言ってくれますように……
「連絡できなくてごめんな?」って、両手を合わせて謝ってくれますように……
秋晴れの空の下、重い足を一歩踏み出す。
こんな日は青空を眺めながら歩くのが好きだったけど、今日はどうしても顔を上げる気にはならなくて、足元だけをジッと見つめて歩き続けた。
ふと視界に飛び込んできた見慣れたレア物のスニーカー……
ピタッと足を止めて立ち止まる。
英二くん……