第71章 【ドヨウビ、ヒルサガリ】
大丈夫……英二くんはもう前の英二くんと違うもの……
私のこと、すごく大切にしてくれてるもの……
切望にも似た思いを何度も自分に言い聞かせながら、英二くんと鳴海さんに見つからないように自宅へと急ぐ。
だけど、その数十分後……
英二くんから届いたLINEが、私のその切望を絶望へと変えた……
『ゴメン、バイト長引いてさ、今日、行けなくなっちった……ほんと、ゴメン!』
英二くん……どうしてそんな嘘ばかりつくの……?
これも私のためについた優しい嘘なの……?
今頃、鳴海さんと、いったい何をしているの……?
良かった……メッセージの方で……
通話だったら、私、平気な声、出せないもの……
ポツリ、ポツリと携帯のディスプレイに零れ落ちた涙……
グイッと手のひらで拭うと、わかりました、そうなんでもない振りをして返信を打つ……
『バイトなら仕方がないですね、また次の機会に……』
私だけって言ってくれたじゃない……
プロポーズだってしてくれたじゃない……
大好きって優しく抱きしめてくれたじゃない……
「嘘つき……」
自宅に着いた途端、その場に泣き崩れる。
いいよ……浮気なら……私、大丈夫だから……
本当はすごくイヤだけど……
相手が鳴海さんなんて、なおさら絶対イヤだけど……
英二くんを失わないためなら、私……
いくらでも、平気な振り、してみせるから……
今夜の電話はなんでもない振りをして、いつも通り楽しくお話しするね……?
それまで、いっぱい泣いて、スッキリするから……
だからお願い……
絶対、鳴海さんのものにも、他の誰かのものにもならないで……?
必ず、私のところに帰って来て……?
お願いだから……
捨てないで……