第71章 【ドヨウビ、ヒルサガリ】
状況を見ればすぐに、鳴海さんもここで英二くんと一緒にバイトしているのは分かって……
でもいくら理解できたとしても、全然、納得は出来なくて……
どうして英二くんは鳴海さんと一緒に帰っていくの……?
どうして英二くんはそんなに楽しそうに笑っているの……?
どうして英二くんは私に何も言ってくれないの……?
沢山の「どうして」に頭と心が支配されていく……
「あいつら、相変わらず見せつけてくれるよなー……」
「ほーんと、毎回仲良く一緒に帰ってさー……あー、俺も彼女欲しいー……」
2人の後から出て来た同じバイトの人たち……
ああ、やっぱり……
あの時、英二くんくから鳴海さんの香りがしたのは、偶然でもなんでもなく、あんな風に一緒に帰ってきたからなんだ……
あれは、私に会うためじゃなくて、鳴海さんを送るために途中下車したんだ……
一つ一つの出来事が、すっと頭の中で綺麗に整理されていく……
同じところでバイトするのも、今度は周りからも攻めていこうかなって、そう言った鳴海さんの戦略のひとつ……
ドクン、ドクンと脈打つ心臓……不安がまた一段と深く濃くなっていく……
「あの、大丈夫ですか……?どこか……具合でも……?」
ハッとして顔を上げる。
そこにはさっきのバイトの人たちが、心配そうな顔で私の様子を覗き込んでいた。
「だ、大丈夫です……その……体調が悪いわけではありませんので……」
慌てて立ち上がると、ありがとうございます、そうペコリと頭を下げて、英二くんの向かった先に視線を向ける。
そうだ……こんなところで泣いている場合じゃない……
これから英二くんがうちに来てくれるんだもん、早く泣き止んで笑顔で出迎えなくちゃ……
そう、別に英二くんは私に鳴海さんと同じバイトなのを黙っているだけ……
それ以上でもそれ以下でもなんでもないはず……
そんな自分に都合の良い解釈をして、なんとか気持ちを強く持ち歩き出す……