第71章 【ドヨウビ、ヒルサガリ】
時間はちょうど午後2時57分……もう英二くんのバイトが終わる時間。
思い立ったが吉日ではないけれど、私には珍しく無計画のまま英二くんのバイト先まで来ていた。
結局、時間ギリギリになっちゃったな……
女の子の外出準備はなにかと時間がかかる。
大好きな人に会いに行くとなるとそれは尚更……
着る服は昨日から決めていたのに、いざとなるとやっぱり迷っちゃったし、少しはメイクだってしたいし……
まぁ、家に着いた途端すぐに、その……求められるだろうから、先にシャワーを浴びたってのもあるんだけど……
って、だから私、これじゃ、思いっきり期待しちゃってるみたいじゃないってば!
服だって英二くんが脱がせやすいものを無意識に選んじゃってるし、下着だって英二くんのお気に入りのものだし……
自覚したらすごく恥ずかしくて、顔が火を吹いたように熱くなる……
私、何やってるんだろう……なんて慌てて手のひらで顔を仰ぐと、邪魔そうな顔をしてカップルが店内に入っていった。
そんな迷惑そうな視線に慌ててお店の正面入り口から、横の自動販売機のところに移動する。
どうしよう……、このままじゃ、怪しい人になっちゃう……
中に入っても大丈夫かな……?
ガラス窓に貼ってある新譜CDやゲームのポスターの隙間から、そっと店内を覗き見る。
週末だけあって中には結構なお客さんがいて、紺色の制服を着た店員さん達が慌ただしく働いていた。
英二くんもあんな感じで働いているのかな……
その姿を想像したらなおさら胸がドキドキして、ますます顔が熱くなっていく。
その途端、かすかに聞こえた英二くんの「いらっしゃいませ〜!」に胸のドキドキがバクバクに変わった。
やっぱり、堂々とお店に入って英二くんに声をかけるなんて私にはムリ!
大きく何度も深呼吸してバクバクする心臓に一生懸命酸素を送り込む。
やっぱり英二くんが出てくるまで、ここで待っていよう……、そう思ってまた自販機の影に身を潜めた。