第70章 【ヤサシイウソ】
「小宮山さん、お願い、この通りっ!」
「……ごめんなさい、私、そう言うのは……」
放課後の生徒会室、学園祭に向けて慌しく働いていた私の目の前で、必死に両手を合わせているのは学園祭実行委員の方。
学園祭のメインイベント、ミスコンにエントリーして欲しいと言う何度目かの打診。
何度も断るのは申し訳ないのだけれど、でもやっぱりそんなことで注目を浴びるなんて恥ずかしいもの……
「小宮山さんなら絶対ファイナリストに選ばれるし、不二くんにエスコートされて登場してくれたら、もう最高に盛り上がるんだけどなぁ……」
そりゃ、不二くんが登場したら、盛り上がるのはわかるけど……
私だって、せっかくの学園祭、実行委員の方々を始め、生徒会もクラスのみんなも一生懸命頑張ってるんだもん、大成功させたいとは思っているけれど……
ね、不二くん、いいでしょ?、そう少し離れて仕事をしていた不二くんに、実行委員さんが声をかける。
お願い、不二くん、断って……!、一生懸命、視線で訴えると、目が合った彼がいつものように笑顔を見せてくれたから、良かった、分かってくれた、そうホッと胸をなでおろしたのも束の間、僕は別に構わないけど……?、なんて言い出して……
もう、不二くんのイジワル!、そう恨めしく思って頬を膨らませる。
「でしたら不二くんには、どなたか他の方のエスコートをしていただければ……」
「いや、そう言う問題じゃないでしょ……」
周りから起こる苦笑い。
そんなに変かな……?、なんて首を傾げていると、ちょっと不二くーん、あなたの彼女、天然?、そう実行委員さんが不二くんに困った視線を向ける。
小宮山さんと不二くんだからいいんでしょー!、そう声を上げるその様子に、ああ、そうか、噂の2人だから盛り上がるのか……って納得すると同時に、また沸き起こった胸のモヤモヤ……
「あの……、ファイナリスト有力候補って、どなたですか……?」
聞かなきゃいいのに、聞かずにはいられなかった……