第70章 【ヤサシイウソ】
次の日は、明け方まで泣いて眠れなかったせいで、本当に英二くんには見せられない顔になってしまった。
あらあら、大変っ!、そう言って慌てて冷温タオルを用意してくれるお母さんに、あの後、目が冴えちゃって寝れなくて、なんて言いながら、あ、嘘も方便、私も英二くんと一緒、なんて苦笑いした。
そのおかげもあって、学校に行く頃にはなんとか瞼の腫れは治ったけれど、目の下の隈は相変わらずで、それを隠すために久しぶりにメガネを掛けて登校したら逆に注目を浴びちゃって……
おはよー、小宮山さ……、そう、いつものように私より少し遅く登校してきた英二くんは、私の顔を見るなり固まっていて……
『どったの?、メガネ』
『別に、どうというわけでは……』
『あ、すげー、隈!オレのこと考えてて寝れなかったとか?』
確かに英二くんのことを考えてて寝れなかったんだけど……
いつもの机の下でこっそり交換する英二くんとのLINE。
そう言えば、体育祭の朝練の時も、外倉庫でこんな会話したっけ……
あの時はまだセフレで、不二くんに借りた英二くんのテニスDVDを見て寝不足で……
そう、英二くんの気まぐれに振り回され続けて、ただ辛くて切なくて、でも失いたくなくて……
それに比べたら、今は想いが通じて本当に幸せで、なのにやっぱり不安で眠れないなんて……
そんなんじゃ、ありません、そう打ち掛けて少し考え、急いで戻し削除する。
はい、昨夜、会えたのが嬉しくて……、そう事実とは違う文字を送信すると、英二くんはパチクリと大きく2回瞬きをして、嬉しそうに口元を緩ませた。
オレも嬉しかったよん、そうすぐに戻ってきた返信文を気休めの精神安定剤にする。
でももう大変ですから、途中下車しないでくださいね?、さらに送った彼を気遣う返信文……
ジッと見つめる英二くんが何度か打ち直して送ったくれた返事は、ん、そだね、と本当に短いものだった。