第70章 【ヤサシイウソ】
「愛されてるわねー……」
自室に戻るとベッドの中に潜り込んで思い出すお母さんの何気ない一言。
うん、そうだよ……プロポーズだってされたもん……
幸せだから大丈夫、あんなこと、気にしない……
「私、本気ですから……今度こそ、絶対、手に入れます」
何度も脳裏で繰り返す鳴海さんの挑戦的な態度。
耳を塞いでブンブンと大きく首を横にする。
追い払っても追い払っても、決して離れてくれない彼女の姿……
だいたい、どうして鳴海さんが私にあんなこと言うの……?
英二くんの友達の不二くんの彼女、だから……?
それじゃ、説明がつかない……
アレはまるで……気がついてる……?
じゃあ、どうしてはっきり確かめないの……?
はらり、涙が次々と溢れ出す。
お母さんに聞こえないよう、下唇を噛んで必死に嗚咽が漏れるのを堪える。
平気だったら……!、気にしないったら……!
英二くんのこと、信じてるもの……!
もう前とは違う……
英二くん、私のこと、大切にしてくれている……
ネガティブに考えちゃう私の悪い癖がまたでただけ……
気にしないようにすればするほど、心の中は不安でいっぱいで、でもそんなこと、とても英二くんには言えなくて……
安心したくて何度も口にした「大好き」の言葉……
声にすれば英二くんが喜んでくれたから……
オレも大好きだよんって、いつも笑って応えてくれたから……
毎晩の英二くんからの電話、いつもの時間になっても今日は掛かってこなくて、バイト、忙しいのかな……?、なんて心配しながら携帯とにらめっこしていた。
私から掛けてみようかな……、そう悩んでいたところで鳴り出した電話はいつもと違って外からのもので……
だいぶ話してるのに、なかなか英二くんは自宅につかなくて……
光丘の駅から英二くんのうちまでの割には時間かかってるなって気になって……
微かに聞こえた踏切の音もまた不思議で……