第70章 【ヤサシイウソ】
「英二くん、おやすみなさい、気をつけて……」
「いいからもう家に入りなって、風邪引いちゃうよん?」
突然、おうちに来てくれた英二くんとほんの少しだけの時間を過ごして、自宅へと戻るその背中をそっと見送る……
英二くん……大好き……、ポツリと呟いてギュッと胸の前で手を握りしめる。
英二くんが角を曲がり、その身体が見えなくなって、その影が消えてからもまだ動けなくて……
英二くん……、嘘、ついた……
「セヤデー、小宮山ニアイタクテ、オモワズオリテモター」
アレ、多分、嘘も方便の間違い……
方言で嘘つけばいいと思ったのかな……?
大丈夫……、多分、意味は間違ってない……
英二くん、私のためについてくれた嘘だもん……
優しい嘘だもん……
だからきっとただの偶然……
英二くんから鳴海さんと同じ香水の香りがしたのなんて
ただの、偶然、なんだから……
そっと音を立てないように玄関を開けて中に入る。
もう寝ちゃってるお母さんを起こさないように……
璃音、外、行ってたの……?、静かに自分の部屋に戻ろうとしたところで、お母さんの寝室のドアが開き声をかけられる。
お母さん、気がついていたんだ……
うるさくして、ごめんなさい、申し訳ない気持ちでお母さんに頭を下げる。
「英二くん……バイトの帰りにちょっとだけ、寄ってくれたの……」
「あら、上がって貰えば良かったのに、会いたかったわー」
「……いくらなんでも、こんな時間に上がりこまないよ」
本当は私に声かけるつもりもなかったんだよ?、そう苦笑いする私に、あら、愛されてるわねー、なんてお母さんは冷やかし気味に笑う。
もう、からかわないでよ、そう言って頬を膨らませると、はいはい、早く寝ないと英二くんに見せられない顔になっちゃうわよ?、なんて言いながら、お母さんは寝室へと戻って行った。