第70章 【ヤサシイウソ】
つい勢いで、小宮山の家まで来ちゃったけれど、こんな時間に、もうあとは寝るだけの小宮山を呼び出すのも悪いし……
影が見れただけで良しとするかな……
やっぱ、このまま帰ろ……、そう思ってくるりと向きを変える。
その瞬間、携帯から聞こえた、サーっと勢いよくカーテンが引かれた音。
英二くんっ!、小宮山の声に呼び止められて足が止まる。
振り返って部屋の窓を見上げると、スッと窓が開いて驚いた顔の小宮山が顔を覗かせる。
どうして、ここに……?、そう戸惑った顔に頬が緩む……
ありゃ、見つかっちった……、ヘラっと笑うと、プッと通話が切られて小宮山の姿が部屋の中へと消えた。
「どうしたんですか、こんな時間に……?」
すぐに玄関が開いて、パジャマの上にカーディガンを羽織った小宮山が駆け寄ってくる。
どうもしてないよん……?、そう言って腕を広げ待ち受けると、少し戸惑った小宮山がポスッと腕の中に収まった。
「小宮山だー……」
自分から家の前まで来といてなんだけど、会おうと思って来たわけじゃないから……
なんも言わず、このまま帰ろうと思っていたら、小宮山が気づいてくれたのが嬉しくて……
ギュッと抱きしめる手に力をこめる。
オレの腕の中で小宮山はすげー嬉しそうな顔をして、すぐに抱きしめ返してくれる……と思ったら、予想外にすっかり固まってしまっていて……
なんだよ、その顔、そう言ってプッと吹き出したら、我に返った小宮山は、あ、いいえ、突然だったので……、そう言ってぎこちなく笑った。
「そんなに驚いた?」
「はい、凄く……」
「よく分かったねー、オレ、来てるって」
「なんとなく……」
はは、シンクロにゃ……、まだ固さが残る小宮山の頬に手を添えると、その唇にそっとキスをする。
唇が触れる瞬間、ピクッと小さく身体を跳ねさせた小宮山……
チュッチュッと短く数回、その柔らかい唇を啄んでから顔を上げると、固まったままの小宮山に、まだびっくりしてんの?、そう言ってニィッと笑った。