第70章 【ヤサシイウソ】
『……英二くん、まだ外なんですか……?』
「へ……?、あ、うん、帰る途中ー」
時間は夜の11時半過ぎ、もう寝静まった住宅街とは言え、外で通話をしていると相手はすぐにわかるもので……
時折横を通り過ぎる車のエンジン音やロードワークで走る人の足音、そんな音に小宮山が敏感に反応する。
『今日、いつもより遅いんですね……』
「ま、まぁ……色々、あって……」
『電話くれるの、家に帰ってからで良かったんですよ……?』
「いいんだって、早く小宮山の声、聞きたかったんだからさ」
ちょっとだけ訪れる沈黙、こんな時は大抵、小宮山が照れて固まっている時。
小宮山、今、顔、真っ赤だろー?、ニヤリと笑って問いかけると、そ、そんなこと、ありませんよ……?、なんてあからさまに強がりを言う。
芽衣子ちゃんを送るために青春台で下りた電車、小宮山と電話をするため駅には戻らず光丘へと徒歩で帰る。
もうこんな時間だから、ちょっとした声でもすごく響いて……
近所迷惑にならないように、小さい声で、言葉の数も控えめに……
だけど、この電話で小宮山と繋がってる、そう思うだけで、あんまいつもより喋れなくても、やっぱ、すげー、安心できて……
ふと差し掛かったいつもの公園、ここを通ればオレの家まであっという間……
だけど……じっと見つめる小宮山の家の方角……
呼ばれるように自然と足がそちらに向かう。
『英二くん、まだおうちに着かないんですか……?』
「ん、もちょっと……」
普通にオレが光丘の駅から自宅に向かう途中で電話していると思っている小宮山……
カンカンと響く、オレんちの近くにはないはずの警笛音。
踏切……?、怪訝そうな声が会話の端に見え隠れする。
角を曲がり見えてきた小宮山の家……
なんか懐かしいその外観は、二階の小宮山の部屋にだけ、まだ灯りがついている。
いつも小宮山が座っている窓のところ、カーテン越しに愛しい人影が見えた。