第69章 【ゼンチョウ】
芽衣子ちゃんと2人、並んで電車に揺られていると、いやでもあの日のことを思い出す。
あのカラオケ屋で芽衣子ちゃんといっかいヤって、あん時も1人で返すわけにいかなくて、こんな風に一緒に青春台の駅まで帰った。
ここでいい、そう言う芽衣子ちゃんの言葉の通り、んじゃって手を振って家までは送らなかったけど……
今日もそれでいいよな……、携帯ゲームの画面から、隣で恥ずかしそうに俯いている芽衣子ちゃんに、チラッと視線を移す。
「あの、先輩……」
その瞬間、ずっと黙っていた芽衣子ちゃんがオレの様子を伺いながら見上げてきたから、目があって慌ててそれを逸らす。
な、なにさ……?、返事をする声が動揺から少し上擦ってしまい、そんなオレに、彼女はふわりと可愛らしい笑顔を見せた。
だ、だから、その顔はヤバイんだって!
顔だけ言ったら超ドストライクの芽衣子ちゃん……まぁ、性格も可愛いけれど……
それにアッチの相性も、小宮山ほどじゃないにしても、まあまあ……って、だからダメだって、それ以上考えたらっ!
慌てて頭の中から煩悩を追い出すと、迷惑そうな態度をとって携帯のゲーム画面に意識を集中する。
「先輩のクラス、なにやるんですか?、学園祭……」
「たこ焼き屋」
「へぇ、美味しそう、私、食べに行ってもいいですか?」
「……ダメ、周りが騒ぐから」
そうですよね……、シュンと寂しそうに背中を丸くするその様子に、罪悪感で胸が少し痛む。
いやいや、だって騒がれたらやっぱ面倒だし、それに小宮山に嫌な思いさせるじゃん?
「私、学園祭でミス青学にノミネートされるみたいで……」
ミス青学……?、あぁ、今年のメインはミスコンって言ってたな……
この前、小宮山もエントリーの打診されてたっけ……即答で断っていたけれど。
ふーん……、そう興味なさげに聞き流すと、それでですね、そう芽衣子ちゃんはまた頬を染めて上目遣いでオレを見上げた。