第69章 【ゼンチョウ】
「じゃあ、私にもまだチャンスあるかな……」
その芽衣子ちゃんの言葉に驚いてその顔を眺めた。
目があった彼女は、冗談ですよ、そう言ってクスクス笑い、最後って約束しましたもんね……なんて少し寂しそうな笑顔を見せる。
「……それに、先輩に本気の子も、相手にしないんですもんね……?」
「……あ、うん……そう……だけど……」
それはオレがあのカラオケ屋で芽衣子ちゃんとヤる前に言った2つの条件……
『学校関係の子には手を出さない』
『オレに本気の子にも手を出さない』
無理矢理、セフレになんかした小宮山を捨てるのに、あんまり後味が悪かったから、二の舞にならないように芽衣子ちゃんの誘いを断る理由にした。
結局、誘惑に負けて「最後の思い出に」ってことでヤっちゃったんだけど……
じゃあ、やっぱり私じゃダメだぁ……、そう残念そうな顔をする芽衣子ちゃんに、なんて言っていいかわかんなくなる。
だってこれって、思いっきりまだオレのこと好きって言われてんのと一緒じゃん……?
なんで芽衣子ちゃん、そんなにオレのことなんかいいんだろ……
そんな風に以前、小宮山にも持っていた疑問が頭をよぎる。
ジッとオレを見つめる芽衣子ちゃんのまっすぐな視線……
小宮山のとはまた違うそれに、いたたまれなくて視線を逸らした。
「菊丸くん、鳴海さんの着替え、終わったー?、そろそろ店の方手伝ってくれるー?」
気まずい空気を一変させる店長の声……
助かった……、ホッと胸をなでおろし、ほーい、そう元気に返事をすると、それじゃ、行くよん?、そういつもの営業スマイルで芽衣子ちゃんを店内へと促す。
はい、よろしくお願いします、そう芽衣子ちゃんも何事もなかったように、いつもの可愛い笑顔で返事をした。