第69章 【ゼンチョウ】
「や、やめろって……迷惑だから」
声のトーンを落として芽衣子ちゃんを睨みつける。
……ごめんなさい、そう一気に悲しそうな顔になった芽衣子ちゃんに罪悪感でズキンと胸が痛んだ。
その涙をにじませた顔に、一瞬ひるみそうになるも、ダメだって、芽衣子ちゃんには最低なオレのまんまがいいって決めたじゃん?、そう気を取り直して首を横に振る。
はーっとわざと大きくため息をついて、倒れたパイプ椅子を元にもどした。
「本当、迷惑なんだって、前につけられたキスマークも、噂を肯定したことも……」
なんで自分だなんて言ったのさ?、そう吐き捨てるように呟いたオレに、ごめんなさい、そうもう一度、芽衣子ちゃんは震える声で謝った。
「……でも、あの場合、私だって言った方が、すぐに騒ぎが収まると思ったんです……、ずっと騒がれるの、先輩、嫌だと思ったから……」
まあ、確かに、芽衣子ちゃんが肯定したおかげで、やっぱりねってすぐにあの日の倉庫での話題は下火になったから、助かったといえば助かったんだけど……
小宮山に電話で宥められたように、芽衣子ちゃんだって複雑な思いで考えてくれたんだろうけど……
……でも、先輩、少しだけ芽衣子ちゃんの声のトーンが変わった気がして顔を上げる。
目に入った芽衣子ちゃんの顔が少し含みある笑顔に見えた気がして、戸惑いながらその言葉の先を待った。
「学校関係の子には手を出さないって言ってたのに、条件、変わったんですね……?」
その言葉にドキッとして慌てて視線をそらす。
そうだよな……オレの本性知っている芽衣子ちゃんからしたら、あの場合、学校の子とただ単にセックスを楽しんでいただけとしか思えないよな……
いや、アレは……、そう言いかけて口ごもる。
本当のことは言えないんだから、否定していいのかわかんなくて……
結局、何も言えないでいるオレに、じゃあ、私にもまたチャンスあるかな……、なんて芽衣子ちゃんは口元を緩ませながら呟いた。