第69章 【ゼンチョウ】
「ここが休憩室、そっちが女子の更衣室だから、この制服に着替えてきて」
バイト先の控え室、芽衣子ちゃんにレンタルショップの制服を渡しながらそう女子更衣室を指差す。
はい、可愛らしい笑顔で頷いた芽衣子ちゃんが更衣室に入っていくと、ふぅーっと大きくため息をついてパイプ椅子へと腰を下ろした。
偶然、オレのバイト先で芽衣子ちゃんもバイトすることになって、顔見知りだってことでオレが色々教えることになって……
やっぱ、気まずいよなぁ……、なんてワシャワシャと髪をかき乱す。
これが普通の後輩だったら、なんの問題もないんだ……
だけど、よりによって芽衣子ちゃんはオレが2回も振った相手で、しかも2回目は相当ひどい振り方をして、さらにそのあと、我慢できなくて1回ヤッちゃった相手で……
あの後、小宮山に見つかったキスマーク……
あん時はまだ付き合ってなかったけれど、必死に我慢しながら堪えきれずに涙を流した小宮山の泣き顔を思い出す。
まぁ、アレは芽衣子ちゃんが悪いってわけじゃないけどさ……
はぁー……、今日、何度目かの大きなため息が口から溢れた。
「……先輩、お待たせしました」
ガチャリとドアが開いて芽衣子ちゃんが笑顔を覗かせる。
なんてことないうちの地味で冴えない紺色の制服……
おんなじデザインでも可愛い子が着ると、どことなく華やかに見えるから不思議だ。
あ、うん……、思わず見惚れてしまい、慌てて芽衣子ちゃんから視線をそらして立ち上がる。
やべー……、なんか、動揺して、余裕、ない……
「あ、先輩……髪の毛、乱れてますよ……?」
その声に振り向くと、急に目の前に現れた芽衣子ちゃんの可愛い顔……
さっき搔き乱したオレの髪に手を伸ばし、手櫛で整えてくれる。
ふわりと甘い香水の匂いが辺りを包み込んだ……
思いがけない芽衣子ちゃんの行動に、慌ててその手を払いのける。
反動でさっきまで座っていたパイプ椅子が、ガシャン!と派手な音を立てて倒れた。