第69章 【ゼンチョウ】
「あ、菊丸くん、紹介するよ、今日から入ってもらうアルバイトの鳴海芽衣子ちゃん」
小宮山と別れた後、いそいそと向かったバイト先で、店長に紹介されたのは芽衣子ちゃんだった。
目を見開いて固まってしまうと、菊丸先輩……!?、そう芽衣子ちゃんも驚いた顔をしている。
なんで芽衣子ちゃんがここに……?
って、募集していたバイトに申し込んできたからなんだろうけど……
でも、こんな偶然って普通あり〜?
「……あれ?、2人とも、もしかして知り合い?」
顔を見合わせたまま固まっているオレと芽衣子ちゃんのその様子に、店長までオロオロして問いかける。
ハッとして慌てて笑顔を作ると、うん、高校の後輩ー、そうなんでもないふりをして明るく返事をした。
そう、高校の後輩、それは間違い無くて……
でも、芽衣子ちゃんとは決してそれだけじゃなくて……
「芽衣子ちゃんもここでバイトすんだー、すごい偶然だね〜!」
「はい……社会勉強がしたくて……でもまさか先輩と同じバイト先なんて……なんか、信じられない……」
思いがけない偶然に、思いっきり気まずさを感じながらも、周りに悟られないように取り繕った笑顔で話しかけると、相変わらず可愛らしい笑顔で芽衣子ちゃんは頬を染めた。
やっぱ、可愛い……、その笑顔に思わずドキッとして慌てて視線をそらす。
そんな芽衣子ちゃんの笑顔に、周りの男性スタッフ達の顔つきも緩むのを感じた。
「そっか、同じ高校なんだねー、じゃあ、菊丸くん、鳴海さんに色々教えてあげてよ」
「へ……オレ!?、オレなんて、まだまだ新人に毛が生えたようなもん……」
「そんなことないよ、鳴海さんだって顔見知りの菊丸くんに教えてもらったほうが色々聞きやすいよね?」
「それは……そうですけど、菊丸先輩が嫌なら……無理には……」
不安そうに伺う芽衣子ちゃんの視線、そして怪訝そうな店長とバイト仲間達のそれに、微妙な空気が辺りを包む。
そんな雰囲気にいたたまれずに、嫌なはずないじゃん!、そう笑顔で答えるしかなかった……