第69章 【ゼンチョウ】
「……良かった……」
ホッと安堵のため息を漏らす小宮山のその様子に、なんだよ、それ、今更へんなの、なんて笑って後頭部で腕を組む。
変ですよね……、そう呟いたその声が少し寂しそうに聞こえて、へ?って思って振り返ると、私、こっちですから、なんて小宮山は生徒会室へと続く廊下の曲がり角で立ち止まっていた。
ああ、分かれ道だからか……
小宮山の近くまで戻ると、不自然にならない距離で向かい合う。
「バイト……相変わらず忙しいんですか?」
「まーねー、でも今日から新しい子が入るって言ってたから、少しは楽になるかにゃー……?」
無理、しないでくださいね、そう心配そうに見上げる小宮山に、ダイジョーブイ!、なんてニイッと笑う。
周りから見たらなんでもないクラスメイトの会話、でも本当は優しい彼女の気遣い……
「そうだ、今度、店においでよ、ファッション雑誌とか、ちょっとなら参考書や小説も置いてあるからさ、おまけしとくよん?」
「それは悪いですよ、でもそのうち、行ってみたいな……」
いつでもいいよん!、そう笑顔で手を振り昇降口に向かって歩き出す。
数メートル進んで振り返ると、寂しそうな顔をしていた小宮山が慌てて笑顔を作った。
そんなにオレと離れるの、寂しいなんてさ……
相変わらず小宮山から溢れ出る「オレのこと大好きオーラ」に満足しながら、今度は勢いよく走り出した。
後から考えたら、小宮山らしからぬ「大好き」を連発する様子も、オレの返事に安心した笑顔も寂しそうな声も、どう考えたっておかしいことだったのに、オレってば肝心なことが見えてなくて……
小宮山がまた自分の中で全てを抱え込んで、1人で悩んでいたなんて、本当に全然気がついていなくて……
この時、もっとオレがしっかりしていれば……
その笑顔の奥に隠した不安に気がついてあげてさえいれば……
あんな思い、させなくて済んだのに……