第69章 【ゼンチョウ】
「き、菊丸くんっ……!」
教室を出て少し進んだところで、突然聞こえた小宮山のオレを呼ぶ控えめな声。
振り返ると小宮山が辺りを気にしながらこちらに駆け寄って来る。
学校でこんな風に話しかけて来るなんて珍しいな……なんてびっくりしながらその到着を待った。
「良ければ、そこまで、一緒に……、美沙が、気を、遣ってくれて、時間だよって……、本当は、まだ、余裕、なんですけど……」
ハァ、ハァと息を切らした小宮山が、生徒会執行部のファイルを見せながら嬉しそうに笑う。
その頬を染めた笑顔にドキッとして、う、うん、いいよん?、なんて上ずった声で返事をした。
「あの、本当にありがとうございます、ネコ耳……私が作ったらゾンビネコになっちゃう……」
「それはそれで可愛いと思うけどにゃー……?」
「いえ、きっと本当に不気味ですよ……」
学校だから2人の時より一歩ぶん距離をとって歩く。
それは教室で机を並べて座っているときと同じくらいなのに、隙間を通る空気はいつもよりスースーしてちょい寂しい……
「でもあんなに嫌がってたじゃん?、ネコ耳……ワガママ言ってゴメンにゃ……?」
「あ、いいえ、いいんです、菊……英二くんが望むことなら私……」
近くに誰もいないことをまた確認して「英二くん」に呼び方を変えた小宮山が、本当に、大好きですから……、そう真っ赤な顔をファイルに埋めながら小さく呟く。
さっきから学校では珍しいことの連続に、驚いてその赤い顔をマジマジと眺めた。
「え、英二くんは……?」
「へ……?」
「英二くんは……あの、その……私のこと……」
ますます顔を真っ赤にして、どんどんと語尾も身体も小さくさせていくその様子に、あ、そうかって気がついて、そんな小宮山の可愛さにこっちまで顔が赤くなってしまう。
オレも、大好きだよん、そっと囁いた瞬間、小宮山は安心したように頬を緩ませた。