第69章 【ゼンチョウ】
「……と言うわけで、この値段設定でしたら学園祭としても無難ですし、完売できれば打ち上げ代の補助もできると思います」
「やった、じゃ、今度こそ璃音も行くよ、カラオケ!、体育祭の時はダメだったからね」
市川のそんな申し出に、歌は歌えませんけど……なんて小宮山が恥ずかしそうに、でも凄く嬉しそうに笑う。
体育祭の打ち上げの時、小宮山を誘ったけど断られたと言っていた市川……
あの時は小宮山、心を閉ざしたままだったから、打ち上げなんて考えらんなかったけど、学園祭は一緒に楽しめそうだなって、その笑顔を見ながら思わず頬を緩ませた。
「みてみてー、出来たよっ!ネコ耳、こんな感じでどう?」
1人の女子がその輪の中に弾んだ声をあげて入り込む。
その手にはこのたこ焼き屋には欠かせないネコ耳、どう、似合う?嬉しそうにカチューシャを髪にセットする。
可愛いー!、沸き起こる歓声、みんなの楽しそうな笑顔の陰で小宮山の顔が曇る。
「じゃ、これ、材料一人分づつ切り分けて来たから、みんな自分のぶんとってー」
「へー、作り方もちゃんと書き出してくれたんだ、思ったより簡単だねー」
……手作り?ああ、だから小宮山……
手を伸ばして作り方の紙を取ると、ふーん、なんて言いながらそれを確認する。
確かに簡単そうだけど、小宮山からしたらきっと難関大学の入試問題よりずっと難しいに違いなくて……
『オレが作るから安心していいよん、そういうのはオレ担当って言ったじゃん?』
そんなオレのLINEをあたりを気にしながら確認した小宮山が、小さくペコッと頭を下げる。
英二くん、大好き……、時間差で入った返信には小宮山からの嬉しい言葉が綴られていて……
真っ赤な顔をして俯いている小宮山と同じように自分の顔も赤くなるのに気がついて……
オ、オレ、バイトだから先、帰んね!、なんて慌てて机から飛び降りると、熱い頬を隠しながら足早に教室を飛び出した。