第68章 【ムナサワギ】
「はい、そんなことは簡単ですけど、今度は周りからも固めていこうと思って……」
「周りから……?」
「だって、同じパターンばかりじゃ、難しいじゃないですか……」
先輩の気持ち、手にいれるの、そう言って鳴海さんはクスクスと笑った。
周りから……?
ああ、だから英二くんとの噂も一向に否定しないし、それどころか肯定までしたんだ……
鳴海さんって、私が思っていたより、ずっとしたたか……
その可愛らしい笑顔と裏腹なその態度を呆然と眺めた。
ごめんなさい、なんと言われましても私には無理です、そう首を振ってもう一度その申し出を断った。
「それでは、本当に時間がありませんので……」
ペコリと頭を下げて背を向けた私に、小宮山先輩!、そうもう一度、鳴海さんが声をかけた。
視線だけ振り返ると先ほどまでの可愛らしい笑顔とは打って変わって、彼女は真顔……というより、少し怖い顔で私を見ていた。
なに……?、その今までに見たことのない彼女の雰囲気に、ドクンと胸が嫌な鼓動を打ち始めた。
まただ……このザワザワした感じ……
その胸騒ぎは何度も感じたそれと同じで、ギュッと胸をおさえてそれに耐えた。
「私、本気ですから……今度こそ、絶対、手に入れます」
鳴海さん……?
どうして私をそんな目で見るの……?
その真剣な声とビシビシと感じる敵意に動揺を隠しきれなくて……
ダメ、これ以上、関わっちゃ、絶対ダメ……!
そ、そうですか……、とっさに視線を逸らして、なんとか声を振り絞った。
「……協力してくれないなら、せめて上手くいくように祈っててくださいね?」
恐る恐る顔を上げて見つめた鳴海さんは、もういつもの可愛らしい笑顔で私に笑いかけていて、そのうち、ダブルデートしましょうね!、なんて言いながら可愛く手を振り走り去った。
ふわりと香る甘い彼女の残り香が、おさまらない胸のざわめきに拍車をかけて……
しばらくその場から動けずに、彼女の立ち去った方向を不安な気持ちで眺めていた。