第68章 【ムナサワギ】
それじゃ、どういうつもりだったというの……?
そう思いながら振り返ると、突然両手をぎゅーっと握られて、小宮山先輩にお願いがあって、なんて鳴海さんは目をキラキラさせて私の顔を覗き込む。
「私にお願い……?」
「はい、不二先輩の彼女の小宮山先輩にしか頼めないんです」
不二くんの彼女にしか頼めない鳴海さんのお願い……
もうそれだけで胸は嫌な予感でいっぱいで、目の前の可愛らしい顔を見ていられなくて、な、なに?、そう視線を逸らしながらその繋がれた手を引いて振りほどいた。
「先輩、菊丸先輩とも仲良いですよね……?」
英二くんの名前が出てきて、やっぱり、そう嫌な予感が確信に変わった。
クラスメイトですから……、バクバクする胸を抑えながら、なんとか震える声を絞り出した。
「私、菊丸先輩のことが、大好きなんです」
うん、知ってる……
「前に告白したんですけど、断られちゃって……」
うん、見ていた……
「最後の思い出にって一回だけエッチもしてもらったんですけど……」
そこまでぶっちゃけるの……?
「でも、忘れるの……辞めました」
その言葉に目を見開いた。
ずっと俯いたままだった顔をゆっくりと上げて鳴海さんの顔を見つめた。
そんな私に、鳴海さんはやっぱり可愛らしい笑顔を向けて、だから協力してくれませんか?、そう言って私が振りほどいた手をもう一度握りしめた。
「ご、ごめんなさい……私、そういうの……苦手ですから……」
慌ててもう一度握られた手を振りほどいた。
だけど今度はしっかりと握りしめられていて、振りほどくことは出来なくて……
そんな私に、鳴海さんは、別に大袈裟じゃなくていいんです、そう言ってクスクス笑った。
「菊丸先輩の前で私のことを褒めてくれたり、不二先輩と一緒に4人でお昼たべれるように根回ししてくれたり……」
「鳴海さん、私の力なんて借りなくても、じゅうぶん積極的じゃないですか……」
教室まで1人で来て誘ったりできるんですから……、そう言って掴まれた手を何度も引きながら、また必死に彼女から視線を逸らした。