第12章 【ミカヅキノヨル】
「……今、帰ったのか?」
そーっと鍵を開け自宅に入ると、リビングで父と鉢合わせをする。
予想外の展開に、げっ、とタバコの残り香を気にして内心ヒヤヒヤする。
「あ、うん……大石んとこ行ってて……とーちゃん、帰ってたんだ?」
「ああ、取材が一段落したからな」
父は新聞記者。
仕事柄、どうしても不規則な生活の父は、何日も仕事で家に帰らないなんてしょっちゅうで、家族の多い我が家では尚更2人きりになることなんて珍しい。
思春期の父と子なんてどこの家でもそーだろうけど、かーちゃんと違ってどんな会話をしたらいいのかわからない。
ましてや今のこの状況、なかなか掛ける言葉が見つからない。
「おつかれ~!ほんじゃ、オレ、もー寝るねー?」
結局、なんの良い考えも浮かばずに、そんな風にたわいもない挨拶をして、それから逃げるようにリビングを後にする。
「……英二、出しなさい」
ギクッと肩を震わせ立ち止まると、何のことー?ととぼけて笑顔で振り返る。
それでも真剣な顔で手を差し出す父の無言のプレッシャーに負けて、フーッとため息をついて覚悟を決める。
そっと内ポケットからタバコとライターを取り出すと、とーちゃん、ごめん、そう謝りながらそれを父に手渡した。