第12章 【ミカヅキノヨル】
「……またか?」
オレから受け取ったタバコを握りつぶし、父がそう問いかける。
父の言う「また」はタバコのことなんかじゃないのはわかってる。
「んなんじゃないって、ただの好奇心だよ……」
そう呟くと半笑いで目を伏せる。
「母さんが心配するぞ」
「分かってるって……」
「もう熊の大五郎って歳でもないのは分かるが、タバコはやめなさい」
「だからんなんじゃないってば!!」
思わず否定する声を荒げ、あっ、っと気まずい顔でとーちゃんを見る。
ホント、ゴメンって、そう顔の前で手を合わせると、もう二度と吸わないからさ、許してよ、そう苦笑いで頭を下げる。
「英二、苦しいなら以前のように……」
「とーちゃん、オレ、ほんと明日早いからさ!」
そう慌てて父の言葉を途中で打ち切り、急いで自室へとむかう。
昨年、一人暮らしを始めた兄のおかげで用意してもらった念願の1人部屋。
急いでドアを閉め、二段ベッドの代わりに置かれた普通のベッドに飛び込むと、熊の大五郎を勢いよく引き寄せる。
幼い頃より何度も繰り返す不安感と絶望感、そしてそれを紛らわす安定剤。
ほーんと、もうガキじゃないっての。
ちゃんと笑わないと家族が心配すんじゃん……?
息苦しさを感じながら震える身体で大五郎を抱きしめると、その丸いお腹には次々としょっぱい水痕が出来る。
いつもごめんな、大五郎……
でもすぐに消えるからさ、あっという間に乾くからさ……
そう心の中で大五郎に謝ると、オレは元気で明るい菊丸英二だよん、そう何度も何度も繰り返して呟いた。